白雪姫 試演会コメント:べんいせい

 
2018/7/16 体現帝国 第七回公演 白雪姫 試演会 19:00〜 シアター・バビロンの流れのほとりにて

評価とは相対的な概念である。人は常に他人と対峙することで己の立ち位置を図り、他人から奪うことで優位性を担保する。
渡部剛己によって描かれる世界観には、熱量をともなった温度を感じない。勘違いされては困るのだがこれは褒めているのである。
それは緻密に計算された台詞まわしと、淡々と折り重なるよう展開する洗練されたクールな演出に負うのかも知れないが、良い意味で鬱陶しく客席に語りかけてこない肌感である。
但し、試演会だからだろうか幾分未整理とも思えるテンポの悪さも垣間見えはしたが、それは本公演までには解消されていることであろう。

渡部が提示する白雪姫の物語は自分ではない他者への歪みを伴って、それぞれに自己に内存する不確かさへの葛藤を抱えた人物を配することによって語らせた物語である。
そこには人の時間を奪うものと、人の夢を奪うことを同一線上に捉え、それは人を喰らうことと同義であると定義する。
すべてが相反する世界観にあって、他者へのエピゴーネンが同化することによって昇華するというこの装置性は中々に大胆且つ見事な読み替えと言わざるをえない。
そこに体現帝国ならではのミニマルな舞台美術空間を創出させ、徐々に表出していく何重にもレイヤー化した狂気を伴ってクライマックスへと直走るのである。

あなたがこの世界の中で焦燥感や不安感に苛まれているなら、あなたが生きているのとは違う時間軸に潜って、あなたが感じている諸処の問題を見つめ直してみるといい。
そう言った意味でも是非、この体現帝国を一度味わって戴くことをお勧めする。
 

べんいせい(マッチングモヲル 代表、文筆家)
https://twitter.com/iseiben